Track Assistant
概要
ここiZotopeに勤務する我々は確固たるプリセット信奉者です。これは、何もミックスという芸術においてプリセットが全知全能であると言っているわけではなく、我々はプリセットこそ、新しいサウンドやテクニックを迅速に試聴し、究極的にはミックスの地平を広げる実際的かつインスピレーショナルな開始点であると思っています。もちろん、ユーザーによって、色々な理由から、時折プリセットを使用する場合と、常時依存している場合とあることでしょう。Track Assistant(以下、トラックアシスタント)は、プリセットベースのアプローチの哲学に新たな息吹を与えるべく設計された、ミックスエンジニアである貴方自身が完全にコントロールを掌握できる新たな次元のオーディオ・インテリジェンスです。
トラックアシスタントボタン一つで、Neutron Elementsはオーディオ入力を聴き取り、鍵となる特徴を精査し、種々の方法で貴方のオーディオに最適なプリセットをカスタムチューンします。トラックアシスタントはクリエイティブな開始点としてのプリセットをカスタムチューンして提供するべく設計されており、これを微調整して使用するか、あるいは使用しないかの判断はユーザー次第です。トラックアシスタントの目標は、単に「悪影響を及ぼさない」ということだけではなく、Neutron Elementsのその他全ての機能を駆使してミックスを別次元へと引き上げるための、良い音のするインテリジェントな開始点の提供にあります。
トラックアシスタントはどのように機能するのか?
トラックアシスタントが有効化されていると、設定へ向けた分析を実行するため、再生開始まで4〜10秒ほどを要します。残念ながら、これは淹れたてのコーヒーや紅茶、あるいは更に強力な飲料で休憩を挟むには十分な時間ではありません。これは悠長なアシスタントではないのです。
これは毎回固有の設定を作り出すオーディオ・インテリジェンス(例えば、貴方のために作り出されるドラムのバス設定は、他の誰かのそれとは全く異なったものになる可能性があります)と、度重なる実践から繰り替えし使われるようになったスマート・テンプレートのコンビネーションで成立する機能です。オーディオ・インテリジェンスはマシン分析技術を活用しておりますが、これはクラウドを介したオンラインのコミュニケーションを必要としませんので、1984風のビッグブラザー的ペテンに頭を悩ませずに使用することができます(とは言え、実際のところ、1984年はMIDIがリリースされているので、そこまで悪い年ではなかったかもしれませんが・・・)。 スマート・サジェスチョン機能により、段階的な操作が可能です。状況や好みにより、主観的な要素となるBroadband Clarity(広域清澄性)、Warm(温かみ)とOpen(オープン)、Upfront Midrange(中域強調)などの二次的な操作選択が用意されています。これらの選択肢は、プロセッシングの量(処理量の増減)、EQ形状、圧縮率、そしてその他パラメーターに影響を与えます。この設定項目には、トラックアシスタントの隣にある三角印をクリックしてアクセスします。
注
トラックアシスタントを使用する際は一定時間分析状態にする必要があり、その間、Neutron Elementsにはアクセスできなくなります(分析終了後は自動的にタイムアウトしますが、エラー発生時や待ち切れない場合、Xをクリックすることで分析を中止することができます)。
以下が実際に内部で起こっていることです:
マシン分析アルゴリズムがオーディオを以下の何れかのカテゴリーに分類します:
- ボーカル/ダイアログ
- ギター/またはそれに類する楽器
- ベース
- ドラム/打楽器
- それ以外(例:シンセ、ディジェリドゥー、ブブゼラ)
そのカテゴリーのスペクトラル成形アルゴリズム、‘Neutrinoモード’が選択され、 有効化されます。
クリーンNeutrinoモードに関する注意点
- オーディオが「それ以外」に分類された場合、Neutrinoモードには「クリーン」が選択され、Neutrinoはバイパスされます。
U•オーディオ識別情報を使用し、スマート・テンプレートを参照の上、好ましいシグナルフローを決定します。シグナルフローは世間的に評価の高いミックスエンジニアによりベータプログラムの段階で事前に規定されており、モジュールの順列、あるいはモジュールの有効/無効状態により変化します。
EQモジュールでは、幾つかのフィルター操作点を有効化し、オーディオスペクトラムの中で特に必要とされる箇所にインテリジェントに操作点を配して(共鳴や歯擦音など、そのオーディオに特有の処置を行って)基本的なスタート曲線を決定します。その時に設置されたEQ操作点により、微小なブーストやカット、静的あるいは動的な動作、そしてベル型や棚型のフィルターが適用されます。
- この自動操作点設置の動作に関する詳細は、EQの章を参照してください。トラックアシスタントは、決して予め決められた結果のようなものを目標としてオーディオを分析しているわけではなく(例えば、オーディオにローエンドが欠落している場合、ローエンドを大きくブーストして、ピンクノイズのように信号を平均化するのではなく)、既に信号に存在し、信号のなかで影響力のあるエリアに操作点を置いていることを理解することが重要です。
エキサイターが有効化されている場合、スマート・テンプレートは、バンド、アルゴリズム(Tube/Tape/Warm/Retro X/Y pad)、そしてドライ/ウェットのブレンドといった、プリバンドのエキサイターのパラメーターをセットします。
有効化されたコンプレッサーの各バンドとダイナミックEQの各バンドは、LKFS信号レベルと付加的な計算に応じてスレッシュホルドが流動的に選択されます(これは、スイートスポットの探知に掛かる時間を短縮し、それに対する微調整や、美的感覚に基づく方向性の仕切り直しに割ける時間が取れることを意味します)。
スマート・テンプレートは、ビンテージかデジタルか、状況に応じてスタイリッシュにコンプレッサーのモードを決定し、同時にレシオ、アタック、リリース、そしてドライ/ウェットの項目も設定します。
トラックアシスタントの動作が終了すると、作業の開始点となるプリセットが出現します。これには、シグナルフロー、EQ曲線と操作点の位置、圧縮設定、エキサイター設定、そしてNeutrinoの設定が含まれます。 こうして見ると、順序を追ってプロセスしているようですが、実際はそうではありません。ステップ1とステップ2こそ、初めに発生しますが、その後のステップは同時に行われ、相互作用しながら最終的な出力を作り出します。 以下は重要なポイントです:
クリーンモードについて
- オーディオが何れにも分類されず、Neutrinoモードにより「クリーン」とタグ付けされたとしても、Neutronはオーディオのタイプにかかわらず、能う限りプリセットを作り出し、更に、スマート・テンプレートが一般的に最良と思われるアプローチを採用します。
トランジエント成形はトラックアシスタントの影響を受けません
- トランジエント成形や、その新しいアルゴリズムは素晴らしいサウンドを作り出しますが、トラックアシスタントはこの調整を行わずに無効化します。
トラックアシスタントがオーディオの分類を誤認した場合
- もしトラックアシスタントがお使いのオーディオファイルを誤認する場合は、カスタマーケアー(https://support.izotope.com/) を通じてそのファイルをiZotopeまでお送りください。アルゴリズムを向上させるべく、精査致します(勿論、いつでもフィードバック致します)。
トラックアシスタントの諸機能
トラックアシスタントのプリセット
- Broadband Clarity(広域清澄性)は濁りのある音や、上方向のマスキングに対処するため、大体において信号を減じる傾向にあります。ユーザーによる強度設定により、緩やかで幅の広いQのEQブーストが組み込まれます。圧縮は通常、クリーンかつトランスペアレントです。
- Warm and Open(温かみとオープン具合)は全ての楽器にボディとパンチを加えることに焦点を絞ります。ユーザーが高めの強度設定を選択すると、圧縮は強めに掛かります。楽器のサウンドに忠実度が不足している場合は、低中音域にEQブーストが適用されます。素材の状態によって、トラックアシスタントはキャラクターとディテールを前面に出すべく、中域をブーストすることもあります。
- Upfront Midrange(中域強調)は中域と“エアー”EQのブーストにフォーカスします。大抵は幅広いQとなり、音楽的なサウンドが得られるよう設計されています。ミックスの中心となるべき中域をマスキングするような、濁りの原因となる可能性のある要素を削除します。ここではパラレルコンプレッションが用いられ、トラックにエッジを効かせます。
取り消し履歴
トラックアシスタントによる編集結果が気に入らない場合は、シンプルに取り消し履歴を開き、作業開始前のステップへ戻ることで時計の針を逆に進めることができます。