コンプレッサー
概要
単純に言うと、コンプレッサーはダイナミックレンジを調節します。最も一般的な使用方法は、ダイナミックレンジを狭める下方向の圧縮ですが、後述するように、Neutron Elementsは上方向の圧縮も下方向の圧縮も可能です。
リミッター/コンプレッサーは、元々、ラジオ放送信号のオーバーモジュレーションを防止するために発明されました。時が経つにつれ、エンジニアたちは、より実践的かつ美学的な使用ケースを考えつくようになり、コンプレッサーは今日的なレコーディング、ミキシング、そしてマスタリングで最も多用されるオーディオ処理技術のひとつとなりました。これらは、ボーカルの明瞭度の向上や、過度にアグレッシブなスネアの管理に役立つほか、ミックス全体のダイナミックレンジを制限することで、リスナーによる再生システムでの頻繁なボリュームを不要にします。
コンプレッサーは我々が最も頻繁に耳にするエフェクトのひとつであすが、正しく使えば、リスナーはその存在に気がつきません。多くのミックスエンジニアは、オーディオに対する色付けとしてコンプレッサーの使用を好みますが、ミキシングにおいては平明性が鍵となります。効果的にダイナミックレンジを制限するにあたり、異なる周波数帯のスペクトラムには、それぞれ異なる圧縮設定が必要になるというのが、ミキシングエンジニアが直面する試練のひとつです。個別にアタック時間、あるいはコンプレッサーがゲインを減少し始めるまでの時間の長さを設定することが鍵となります。
例えば、明るいギターとバスドラの信号が共に短いアタック時間のコンプレッサーに送られたとすると、ギターのトランジエントは管理することができますが、バスドラはアタック感を失い、詰まった感じになってしまします。これは、短いアタック時間では、バスドラの低域にあるトランジエント情報に対し、圧縮が行われる前に通り抜ける時間が十分に確保されていないからです。しかし、アタック時間が長いと、バスドラには望みのパンチが得られるかもしれませんが、これではギターが耳障りに聞こえるでしょう。これは、高域のトランジエントが短い時間で圧縮前に通過し、ギターに対し、殆どコンプレッサーが作動していないためです。これはバランスを取るデリケートな作業なのです!
アタック時間の長短にかかわらず、シングルバンドコンプレッサーは録音素材の異なる周波数スペクトラムに対して有利に働き、ミックス内の各成分の関係性を変化させます。Neutron Elementsには素晴らしいシングルバンドのコンプレッサーが搭載されており、好みに応じてトランスペアレントにも、(ビンテージモードの使用により)色彩豊かに使用することもできます。
更に高度なユーザーであれば、録音素材の周波数レンジが広い場合、効果的な圧縮を施す上で、周波数スペクトラムのパート毎に、異なるアタック時間とリリース時間を使用する必要が生じることがあります。Neutron Standard及びNeutron Advancedに搭載されるマルチバンドコンプレッサーではこれが可能です。是非無償トライアル版をお試しください!
操作項目
コンプレッサーには4つのセクションがあります:
- トップのグローバルエリアには、コンプレッサー全体に影響するグローバルなパラメーターがあります。
- その直下にゲインリダクションメーターのセクションがあります。
- スペクトラム画面で、サイドチェーン検知回路フィルターの調整を行います。
- 下部には圧縮操作に関する詳細項目があります。
Vintage mode(ビンテージモード)
Neutronのコンプレッサーには、デジタル、そして今回初めてリリースされたビンテージの全く異なる2つのモードがあります。デジタルはよりトランスペアレントかつ成形的なコンプレッサーであるのに対し、ビンテージは、古くより愛顧されてきた旧型のアナログコンプレッサーをエミュレートした、よりカラフルなコンプレッサーです。ビンテージモードでは、アタック時間はより迅速に反応し、その後、緩和するためパンチ力のあるサウンドになりますが、デジタルモードほどトランスペアレントではありません。ビンテージモードでは、膝値はスレッシュホルドに応じて決まるため、この操作項目にはアクセスできません。リリースもより寛容ですので、このアルゴリズムはポンプ圧縮的に聞こえると表現することもでき、ミックスによっては、より良い効果をもたらします。アナログとデジタルは、どちらが優れていると言うわけではなく、飽くまでも選択肢となります。
Output Gain(出力ゲイン)
ダイナミックレンジを削減するため、下方向にコンプレッサーを使用する場合、モジュールの全体的な出力を補正するため、ゲインのブーストをトランスペアレントに適用するには二通りの方法があります。上方向のコンプレッサーには、これと逆のことが当てはまりますので、出力ゲインは減衰させる必要があります。このスライダーにより、コンプレッサーモジュールの出力のゲイン調整を手動で行うことができますので、次のモジュールへ移行する際に理想的なゲインのステージングが可能となります。もうひとつは、後述の自動ゲインコントロールを使用する方法になります。
Level Detection Mode(レベル検知モード)
コンプレッサーのレベル検知モードをRMS、Peak及びTrueの何れかから選択します:
- Peakでは、Neutronの検知回路は入力信号のピーク値を見に行きます。一般的には、これは音楽の突発的なトランジエントを一定にする際に便利です。
- RMSではNeutronは入力信号の平均レベルを見に行きます。RMS検知は、音のキャラクターを変えることなく、全体的なボリュームレベルを上げたいときに便利です。
- TrueモードはRMSモードと同じように動作しますが、幾つか鍵となる利点があります。RMSと異なり、Trueモードでは、全周波数を通して同一レベルとなります。これに加え、Trueモードでは、RMS検知では生じ得る人工音やエイリアスが発生しません(これはNeutronに限らず、全てのRMAベースのコンプレッサーに共通する動作です)。時として、このモードの方が耳に心地良い音がしますが、場合によっては表現するのが憚られるような音になることもあります。
Auto Gain(自動ゲイン)
自動ゲインが選択されていると、補正機能がコンプレッサーの各クロスオーバー帯域の信号の入出力を算出し、差異を埋めるために適正なゲインを出力信号に適用します。これにより、オーディオのボリュームは、自動的に未処理の信号と比較できるレベルに合わせ込まれますので、ミックス内で時間に対し適応するスマートな“メイクアップゲイン”的な働きをします。
これは、大きければ良い音に聞こえるという錯覚を起さないようにする上で便利な機能です。
Auto Release(自動リリース)
これは、入力信号の分析に応じてコンプレッサーのリリース時間を自動的に調整する機能です。トランジエントな信号が検知されると、ポンピング減少のためリリース時間は短く設定されます。サステインのある音が検知されると、ディストーション減少のため、リリース時間は長めに設定されます。
リリース時間は気ままに決められているわけではありません。これはユーザーにより設定されるリリースの値に応じて決まります。例えば、リリース時間を100ミリ秒に設定してコンプレッサーを使用すると、リリース時間は20ミリ秒から200ミリ秒の範囲内で信号のタイプに応じて自動的に調整されます。
自動リリースはプロデューサーにとって、上質かつ清澄で感度の良い圧縮を行う上での秘密兵器です。一度結果が気に入れば、作業時間の間中、ほぼオンの状態になることでしょう。実際、ビンテージモードでは、ビンテージ感のあるリリース動作を再現すべく、自動リリースは常時オンになっています。
Reset(リセット)
これはコンプレッサー全体をリセットし、デフォルトの状態に戻します。このボタンをクリック後に、リセットしたことを後悔しても問題ありません。取り消し履歴を使えば、リセットする前の設定に戻すことができます。
Gain Reduction Trace(ゲインリダクション形跡)
これは、入力信号の波形とゲインリダクション量を表す重複曲線をリアルタイムで同時に表示するスクロールメーターを提供する機能です。ここでは圧縮状況を分かり易く表示するよう、修正した波形が使用されます。 ゲインリダクション形跡は、アタックとリリース時間を適正に設定し、ゲインリダクションのエンベロープを観察する上での助けとなります。
最高のトランスペアレンシーを実現するには、波形と並列して形跡を注意深く観察し、リリース時間の変更に応じて、オーディオが次のトランジエントを迎えるまでに、ゲインリダクションが0 dBに戻っているかどうかを確認することが重要です。
注
- メーター左側のスケールは、調整して振幅レンジへズームインすることができます。
VU Meters(VUメーター)
ビンテージモードでは、バンド毎のゲインリダクションメーターにVUメーターが使用されます。起こっているゲインリダクションと、それを視覚化するVUメーターの動きという、オーディオと視覚の組み合われには、名状し難い関係性があるようです。
Sidechain Filter(サイドチェーンフィルター)
スペクトラム画面の左下にあるアイコンで有効化できるサイドチェーンフィルターは、コンプレッサーにより使用される検知回路の周波数特性を特定することができますので、特定の周波数帯に対する感度を上下することができます。これには共鳴ローパス及び共鳴ハイパスも含まれます。
これは特に、低域をロールオフしながら、中域や高域の共鳴に対してコンプレッサーを効かすことができますので、歯擦音や耳障りな音、あるいは叩き過ぎのスネアなどを抑制する際に便利な機能です。
有効化されると、スペクトラム上にロー及びハイフィルターのアイコンが重ねて表示されます。クリックして水平方向にドラッグすると周波数を、垂直方向にドラッグすると共鳴を調整することができます。
Sidechain Filter Solo(サイドチェーンフィルターソロ)
これにより、フィルターされたサイドチェーンの信号のみを試聴することができますので、コンプレッサーをトリガーする入力信号を聴くこともできます。サイドチェーンフィルター(スペクトラム画面の真下)の右側にあるアイコンをクリックするとエンゲージできます。これにより、前述したサイドチェーンフィルターEQを微調整することができます。
Threshold(スレッシュホルド)
スレッシュホルドでダイナミック処理の始まるポイントを設定します。プラスの比率は信号がスレッシュホルドを通過することを意味し、マイナスの比率は信号がスレッシュホルドより下降することを意味します。
Ratio(比率)
比率では、入力信号に対しコンプレッサーが適用するレベルの量を調整します。例えば、比率が3:1の場合、スレッシュホルドを3 dB通過した信号に対し、1 dBのみのゲインが適用されます。
Neutronのコンプレッサーは、上方向の圧縮(比率がマイナス値)も、下方向の圧縮(比率が)プラス値)も行うことができます。これに加え、コンプレッサーはリミッターレベルのプラス比率をサポートしますので、これにマルチバンド処理能力を合わせると、エレクトロニックサウンドや高RMS値に分類されるジャンルを扱う際に便利です。アコースティック素材に対しては、低い比率の寛容な圧縮が推奨されます。これにより、圧縮過多を防止できます。
Knee(膝値)
この可変膝値により、要求する圧縮の性質を調整することができます。“性質=キャラクター”は間違いなくオーディオの世界で最も多用される言葉ですが、ここでは、設定が高いと“ソフトな膝値”となり、繊細でナチュラルな音質の圧縮となりますが、設定が低いと“ハードな膝値”となり、よりアグレッシブな音質の圧縮となります。このアグレッシブな圧縮は、キックドラムやスネアなどに意図的にしようされることがしばしばあります。
Attack & Release(アタックとリリース)
アタックとリリースを調整し、スレッシュホルドを越えたオーディオに対し、コンプレッサーモジュールがどれだけ迅速に反応するかを設定します。
- アタックは信号がスレッシュホルドに達した際に、ダイナミック処理が反応する速度を決めます。
- リリースは信号がスレッシュホルドを下回った際、ダイナミック処理がノーマルなレベルに戻るまでの時間の長さを決めます。
Sidechain(サイドチェーン)
DAWの外部バスルーティング機能を使用する場合は、他のトラックやバスからオーディオを取り込んで、それをNeutronにてサイドチェーン/キー入力として使用できます。
ユーティリティ機能
Mix(ミックス)
ミックススライダーはパラレル圧縮を可能とする便利な機能です。100%に設定されていると、コンプレッサーにより処理されたオーディオのみ再生されますが、50%に設定されていると、圧縮処理のかかったオーディオと未処理のオーディオが半々にブレンドされます。多くの場合、極度の圧縮設定に未圧縮信号をブレンドすると(50 - 80%ドライ、50 - 30%ウェットが典型的な使用例)、音楽性を損なうことなく、より平滑で洗練された音質が実現できます。これはグローバル設定ですので、未処理とはコンプレッサーの入力音であり、処理された信号とはコンプレッサーの出力を意味します。バンド毎のミックス操作により、コンプレッサーの出力にはドライのオーディオが含まれる可能性があります。