エキサイター
概要
エキサイターはオーディオ信号にハーモニックディストーションを付加します。これは既存のオーディオを際立たせたり向上させたりする物であり、高域に単純なブーストを施すことも、うるさい追加ハーモニクスで音質を歪ませ、完全にオーバードライブした状態に加工することもできます。
ハーモニックディストーションを加えるオーディオツールの威力を十二分に引き出すには、憶測に対する哲学と経験を必要とすることがあります。ハーモニックディストーションは、公平に言って、最も楽しいツールのひとつです。ハーモニックディストーションは、昔、テープ/真空管の録音媒体による作為として忌諱されていましたが、今では思慮深く使えば音的恩恵として尊ばれていることを理解し、配慮することが重要です。
テープサチュレーションはその好事例のひとつと言えるでしょう。厳密に言って、リールの磁気テープが保持できる磁力には限界があります。音量過多の信号をテープに送り込むことで、この磁力が超過すると、酸化物粒子がサチュレーションを引き起こし、多くの場合、それまで存在していなかった奇数ハーモニクスを作り出します。こうした後付けの人工音は100パーセント良い音がするわけではなく、一昔前、唯一の録音媒体だった磁気テープに録音する際は、注意深く入力レベルをモニターするしか選択肢はありませんでした。今では、有り難いことに、テープサチュレーションを使用するかしないかの選択を任意で行うことができます。
デジタル時代初頭の使用者たちは、デジタルアルゴリズムのもたらす音的なトランスペアレンシー、フレキシビリティ、そして自由な可能性を祝福しましたが、このフロンティア精神はじきに音の拠り所を失いました。このため、我々は長い年月をかけ、上質かつクリエイティブなノンリニア的ハーモニックディストーションをモデリング、複製及び促進する方法について研究を重ねました。Neutronは、テープから真空管に至る温かくレトロなアナログスタイルのサウンドと、アナログドメインでは成し得なかったデジタルドメインの方法論を併せ持った、二つの世界観を両立させる製品なのです。
操作項目
Pre-Emphasis Modes(プリエンファシスモード)
このモードでは、周波数スペクトラムの異なるエリアに対するサチュレーションの加重を選択できます:
- Fullは、中低域になだらかな盛り上がりを加えます。
- Definedは、中高域になだらかな盛り上がりを加えます。
- Clearは、中低域になだらかな減衰を加えます。
Post Filter(ポストフィルター)
スペクトラム画面に重ねて表示されたハイシェルフのアイコンは、1 kHzから20 kHzの帯域で最高-12 dBの減衰を施すことのできる、減衰のみのシェルビングフィルターです。フィルター操作点をドラッグし、フィルターの周波数とゲインを調節します。これはウェット信号全体に適用されるフィルターですので、エキサイターモジュールにより生成された高周波数帯のサウンドを整えることができます。
Reset(リセット)
エキサイター全体をリセットし、デフォルトの状態に戻します。このボタンをクリック後に、リセットしたことを後悔しても問題ありません。取り消し履歴を使えば、リセットする前の設定に戻すことができます。
Drive(ドライブ)
これは励磁の分量を操作する項目です。ドライブを増加させると、素材によってはピーク値が僅かに減少しますが、知覚可能な音量は減少させません。これは、信号をドライブし過ぎると発生することのある“ラウンドオフ”効果によるものです。
X/Y
これにより、異なるハーモニックプロフィールをブレンドさせ、唯一無二にしてこれまで聴いたことのないアルゴリズムを作り出すことができます。注意深くキュレートしたダイナミック定数は、ミックスの際のシームレスな移行を確約しつつ、様々なアルゴリズムのノンリニア性を正確に保持します。
多くのエンジニアは、オーディオを表現するにあたり、共感覚的用語を使いながら、シームレスに彼らの様々な感覚を行き来します。温かい、明るい、ソフト、厳しい、赤い、そして青いといった主観的なミックス用語は人によってその意味合いが異なります。このX/Yパッドは、そうした用語の意味合いを結びつける一助となります。以下、4つのアルゴリズムの詳細です:
- Tube: クリアーな励磁が特徴であり、ダイナミクスとトランジエントのアタックを強調し、TapeやRetroよりも耳障りにならない傾向にあります。
- Warm: これはTubeに似ていますが、素早く衰退する偶数ハーモニクスのみを生成しますので、更に穏やかな音がします。活力のないトラックに、名状し難い活力をもたらすことがあり、特にボーカルトラックに有効です。
- Tape: 磁気テープ機器で発生する類いの奇数ハーモニクスによる明るい音質のサチュレーションですが、ミックスを台無しにしかねないクロストークやヒスなどは含まれません。
- Retro: トランジスタ特性にインスパイアされた、よりエッジの効いたアルゴリズムであり、緩やかに減退する奇数ハーモニクスを含みます。ザ・ブラック・キーズ、あるいはビートルズによる素晴らしい数々のレコードの代名詞的な音であるトランジスタベースのファズが好きな場合は、このアルゴリズムが最適です。
Blend(ブレンド)
これでドライ/未処理とウェット/処理済みの信号のバランスを調整します。多くの場合、ドライブを上げながら、ブレンドを程よく設定し、クリーンでクリアーな信号が残るように設定すると、より良い結果につながります。
ユーティリティ機能
Mix(ミックス)
ミックススライダーはパラレル処理を可能とする便利な機能です。100%に設定されていると、エキサイターにより処理されたオーディオのみ再生されますが、50%に設定されていると、処理されたオーディオと未処理のオーディオが半々にブレンドされます。これはグローバル設定ですので、未処理とはエキサイターの入力音であり、処理された信号とはエキサイターの出力を意味します。バンド毎のミックス操作により、エキサイターの出力にはドライのオーディオが含まれる可能性があります。